「茶の湯」では「お箸を落とす音」が重要な合図になることもある?

私たちは食事をするときに「音を立ててはいけません」としつけられます。これは日本だけでなく、西洋でも同様、ナイフやフォークをカチャカチャささせるのはマナー違反です。しかし日本文化の頂点ともいえる「茶の湯」では、「お箸が立てる音」が重要な合図になるのです。 2017年08月05日作成

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「茶の湯」は極言すれば「一服のお茶をおいしくいただく」ために、あらゆるものを整えることだと言ってもよいでしょう。庭の木々、石の配置、茶室のしつらい、生け花、お香、掛け軸、そして懐石料理もその一つです。料理は、そのあとの「一服のお茶」を味わい深くするためのわき役です。味の濃かったり、量が多かったりしては、主役である「お茶」の味わいに差し支えますから、正式の懐石料理は極めてシンプルなものです。

懐石料理は、「一汁三菜」が基本。最初に飯椀と、汁椀、向付の「一汁一菜」が出されます。亭主の「どうぞお箸のお取り上げを」という声で、客は一斉に箸をとり、食事を味わいます。続いて、煮物、焼き物などが一つ一つ運ばれます。客はそれを味わいます。このあと亭主が酒を勧めます。締めくくりは、湯斗(ゆとう)と香の物。あっさりした漬物とお湯で口を漱ぎ、器も清め、さっぱりした気持ちになるのです。客は、湯斗と香の物を食べ終わると、お箸を一斉に膳の上に落とします。静かな茶室に「カタッ」という音が響きます。水屋に控える亭主はこの音を合図に器や膳を下げて、お茶とともにいただく「主菓子(おもがし)」を運び入れるのです。客が膳に落とすお箸の音は「食事の終了」と、この日のメインイベントである「お茶(濃茶)」の始まりを告げる合図にもなるのです。なれない客は、一斉にお箸を落とすタイミングがわからず、緊張します。実は「緊張すること」も茶の湯では大いに意味があることなのです。日本のお箸の使い方にはいろいろありますが、ここまで洗練されたマナーは他にないでしょう。一度は経験したいものです。

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